女将

前回はバッテラの由来の話をしましたが、今回は松前寿司の話をお願いします。

 

大将

はい。

まず、松前寿司は、昔、ある店が北前船によって松前(北海道南部)から大阪に運ばれた松前昆布(真昆布)を鯖棒寿司の上から巻いて「松前寿司」と名付け登録商標を取ったことで、松前寿司と呼ばれたそうや。

その後登録商標は取り下げたけど、松前昆布で巻いた寿司を松前寿司という呼び名が、一般に流通したみたいや。

 

女将

じゃあ松前昆布を使っているものは棒寿司も木型で押した押し寿司も松前寿司になるの?

 

大将

厳密にいえば松前昆布で巻いた寿司は全て「松前寿司」と呼ぶということになる。だからややこしくって、今は、店によってその辺があいまいになってる。

わしが、師匠から教えてもらった棒寿司と松前寿司の違いは、鯖の棒寿司は鯖の半身をまるまる使ってシャリを練ってふきん締めで作り、黒板昆布で巻いたもの。

 

松前寿司は鯖の半身の半身(1/4)を使って、松前寿司専用の木型で押して作り、白板昆布で巻いたもの。

鯖の使用する量とふきん締めか箱押しか、黒板昆布を使用するか白板昆布を使用するか、この3点が大きな違いかな。

 

女将

なるほど、鯖の使う量が違うんや。だから値段で言えば、棒寿司が一番高くって次に松前寿司で、バッテラになるねんね。それに、松前寿司専用の木型があるんやね。

 

大将

丸底といって底が丸くなっている木型や。

きっと「松前寿司」と商標登録を取るぐらいやから忙しくて、棒寿司のように手でふきん締めにしてたら、時間がかかるから、見た目が棒寿司と同じ扇形になるように底が丸い木型を作り、大量生産してたんやと思う。

前回話した、バッテラといっしょやな。

押し寿司やから時間を置かなくても食べられるということで、黒板昆布を使用せず、すぐに食べられるように白板昆布を使ったんやと思う。

 

女将

なるほど、時間を置かないから昆布のうまみが鯖に染み込むまで待つ必要なく、昆布も一緒に食べられるように白板昆布を使用したということやね。

ちなみに白板昆布ってバッテラの上にのっている昆布のことやんね。

 

大将

白板昆布というのはおぼろ昆布を作る時に黒板昆布の表・裏を薄く削っていくねんけど、最後に残った芯の部分を白板昆布と呼んでいる。

バッテラ昆布というのは、その白板昆布をバッテラの大きさに切った昆布のことや。

 

女将

松前寿司のは大きい白板昆布でバッテラ昆布は小さいんや。

 

大将

前回も話したけど、その時代によって、鯖棒寿司に昆布を巻いたらどうやろうかとか、大量生産するために木型を作ったらどうやろうかとか、庶民の口にも入るように、魚の身を薄くしたらどうやろうかと、店側がお客様のニーズに合わせて作り替えていったものやからどれが正しくてどれが間違いということはないと思う。

ただ、当店では、棒寿司と松前寿司の区別は主に3点。

また、バッテラは鯖を5枚から6枚にへいで、箱で押してバッテラ昆布をのせている。

 

女将

女将:なんか大将とこうやってよもやま話をしていたら、その店なりのしっかりとした軸があれば、寿司の呼び方何でもいいように思えてきた。

 

大将

そやな。わしら職人はこうじゃなければならないという微妙な違いも見過ごされへんけど、お客様にはその微妙な違いは判らんからな。

 

女将

まぁその微妙な違いにこだわりを持つから職人であり「へんこな大将」と呼ばれるんやろうね。

 

大将

なんやその「へんこな大将って?」

 

女将

お客様から言われてるやん。

変なとこにこだわりを持っているから「へんこ」

 

大将

なんか褒められてるんかけなされてるんか分からんけど、こういう人間が今でもおるということは貴重やで。

 

女将

女将:ほんまや。絶滅危惧種に認定してもらわなあかんね。

 

大将

絶滅危惧種って・・・なんでやねん。

 

では、今回はこのへんで。