女将

大将これ見て~

 

 

 

大将

なんやそれ・・・
箸袋か。粋やな~

 

女将

お客様が作られてん。

 

大将

凄いですね。
どうなってるんですか?

 

女将

ちょっと複雑すぎて・・・

 

お客様

簡単やで!

 

女将

おー今回はお客様も登場ですね。

 

お客様

分解して自分で作ってみ。
これは、おめでたいことがあるお客様に出してあげたら喜びはるよ。

 

女将

そうですね。やってみます。
私、こういう細かいことするのが好きですし、これは絶対に女性のお客様が喜びますね。

 

大将

しかし、こういうのをどこで覚えられるのですか?

 

お客様

ははは・・・

 

大将

大体、想像はつきますが・・・

 

お客様

昔はこういうことをする人はたくさんいたよね。

 

大将

そうですね。
京都の祇園だけでなく、大阪にも粋の方はたくさんいましたね。

 

女将

大将、言ってしまってるけど(笑)
例えば、昔は、ほかにどんな粋な方がいてはったん。

 

大将

そやな~
わしが、赤貝のお造りを出した時に、「板さん、これは山水を表しているのだね。」と言って短冊にすらすらと一句詠んで下さった俳句の先生とか、別のお客様に、マグロの造りをお出ししたときなんか、それに一切手を付けずに、「もう一人前マグロのお造りをお願いします。」と言われて、出したらまた、手を付けずに「もう一人前お願いします。」と言われた。

なんでやと思い、その時ちょっと切れない包丁を使っていたので、ピカピカに研いでた包丁に変えてマグロの造りを引いてお出ししたら、やっと召し上がられて、「ええ造り引いてくれた。また、頼むわ。」とポンとチップを置いていってくれたり。

何も言わず、こっちに考えさせる。無言のクレームやな。でも、最後まで見守ってくれる。カウンターの内と外での真剣勝負やな。

 

女将

へー昔は皆さん懐が深いというか器が大きいというか。

自分が美味しいものを食べようと思ったら、職人さんに腕を磨いてもらわなあかんということやね。その為にお客様が教育する。まさに、粋なお客様やね。

 

大将

昔の事ばっかり言ってるけど、今でも、粋なお客様はいてはるよ。

 

女将

そうですね。今日も、お正月ということで、お客様から、素敵なポチ袋に入ったお年玉を頂きました。
これも、粋ですよね。

 

大将

そやな。ちゃんとわしらの為に用意してくださっている。

 

女将

そういうお気持ちがうれしいね。

 

大将

今は、そういう粋さを学ぶことが少なくなってきたな。

わしらが若いころはそういう粋なお客様に育てられて、腕を磨き、一緒に連れて来た若いお客様たちもそれを学んで、次に伝えていくという順番やったんやけどな。

 

女将

今は、少し途絶えているかもしれないけど、当店に来られる若いお客様は、大将の昔のそういう話に興味はあるみたいやね。

 

大将

そやな。教わる機会がないだけで、皆さん興味はあるみたいやし、同じ食事をするのにも、色々なことを知って食べるのと、知らずに食べるのでは、また味も違ってくるしな。

 

女将

ほんまやね。

新年早々、お客様からも色々と教えていただき、私もどんどん育っていってます。

 

大将

身体がか?

 

女将

違う・・知識がです!

 

お客様

また、噺のネタ仕入れてくるわ。

 

大将

ありがとうございます。

 

女将

また、お待ちしております。